「子どもがいなければ、自分の人生がずっと良くなるということです。そのことに疑いの余地はありません」

オルナ・ドーナト著『母親になって後悔してる』を読んだ。
 
著者は、いわゆる「先進国」に蔓延するさまざまな幻想―女性は子供をほしがるのが自然だ、子供を産まなければいずれ後悔する、子育てが辛くてもいずれ報われる(このいずれも日本で生きる私”たち”にはお馴染みのものだ)―を母親になったことを後悔している23人の女性たちの証言をもって打ち砕いていく。
近年、子育ての大変さ(とりわけパートナーが協力してくれないときの大変さ)を嘆く声は、SNSを中心に広く見られるようになった。しかし「母親になったこと自体が間違いだった」という声は聞かない。そうした女性たちの声に着目したセンスと幻想を次々と批判していく根気強さに舌を巻く。
これを読んで思い出したのは、「子供を持つなんて考えられない」と私自身が人に話すとき、「育てるのが大変そうだから」という穏当な理由を添えることが多いことだ。「子供を可愛いと思ったことがない」と言えば、人格を疑われるだろう。
そして男たちの楽天さ。私との将来を望む男たちは、どうやら「いずれ気が変わるだろう」と思っているようなのだ。
それとライフ・ヒストリーやインタビュー調査に対しては良い印象を持っていなかったのだけれど、こうした手法には、これまで聞かれることのなかった人々の声を拾い上げる力があるんだなと感心した。